2014年05月10日

第72期名人戦 第三局「森内名人vs羽生挑戦者」後手急戦で作戦勝ち

2014年5月8〜9日にかけて第72期名人戦七番勝負の第3局が行われました。
先手となるのは森内名人、後手が羽生挑戦者です。

ここまで羽生挑戦者の2連勝で迎えた第3局となり、
森内名人としては先手番でなんとしても1勝を返したいところでしょう。

前2局は相がかりの将棋でしたが、
今回は森内名人が▲7六歩と突き、矢倉戦へ誘致しました。

18手目の局面、ここで後手がどう指すかでその後の展開は大きく変わります。
もし△5二金すれば、おそらく先手が3七銀戦法を選び、後手がそれを受ける展開になるでしょう。
そして△5三銀右とすれば、後手5三銀右急戦へと進む可能性が高いです。

羽生挑戦者が選んだのは△5三銀右(イ図)、積極的に勝ちに行こうとする作戦でした。
この急戦の戦いは両者とも竜王戦で渡辺前竜王と何度も経験があります。

(イ図)

羽生挑戦者が3連勝の後4連敗した有名なシリーズ、そして森内名人が竜王を奪取した前期の竜王戦です。

△5三銀右に対しては、先手も反撃をみせる▲2六歩が主流で、
以下、△8五歩、▲7七銀、△5五歩、▲同歩、△同角と後手が積極的に動いていきます。
8五歩に対しては飛先を受けない指し方もあります。

先手は後手の角に狙いとつけ、▲7九角〜4六角とぶつけていきます。
この場合角交換は先手が良いとされているので、後手は△6四銀(ロ図)とそれを防いできます。


(ロ図)
 
この形が△5三銀右急戦のもっともオーソドックスな定跡です。
先手は▲7五歩から後手の形を乱し、△5五銀を防いでじっと5六歩と打っておきます。

従来はここで△5五歩と打って開戦していたのですが、
そこで△3一玉(ハ図)と寄ったのが有名な渡辺新手です。

>>参考棋譜 第21期竜王戦第6局

(ハ図)

▲2五歩に△5一金とさらに自陣を固め、先手も▲7六歩とキズを消す渋い応酬です。

以前では後手は(中央に手をかけるため)飛先を受けないのが普通でしたが、
今では△3三銀と欲張って受け、玉をどんどん固くします。

△3三銀としたところで▲6五歩(ニ図)と仕掛けるのが後手香損定跡、先手からすれば香得定跡の変化です。
△同銀、▲7三角成、△同桂に▲8二角と打たれ、後手は香車が助けづらいです。

(二図)

ならば知ったことかと△4二金右〜△2二玉と平気で香車を取らせる、
これが香損定跡と呼ばれる所以です。

こんなあっさり香損して後手大丈夫なのかと心配になりますが、
先手も6五歩と後手の駒を呼び込んでしまった上に、玉がまだ6九にいるため、
かなりまとめづらい局面なんですね。
それでしっかりバランスが取れているようです。

先手は少しでも隙を見せれば後手に強襲される恐れがあるため、
駒が動かしづらいのですが、後手はその間に好きなだけ固められちゃうんですね。

▲8二角の局面は第70期名人戦の同一カードでも現れていて、
その時は後手が△8六歩と動きましたが、先手良しとされていました。
しかし、前期竜王戦で渡辺前竜王が香損を意に介せず玉を固めた結果、
後手が猛攻し勝利を収めました。
駒の損得よりも玉の堅さを重視したまさに現代的な発想ですね。

羽生挑戦者もその前例に習い△2二玉まで固めました。
前回の森内渡辺戦では森内名人が▲6八玉と上がったのですが、
どうにも後手の攻めに対して当たりが強すぎました。
6筋に玉がいると△6四飛〜5六銀の攻めが直撃する危険があります。

そこで森内名人も対策を考えていたようで、5八香(ホ図)と打ちました。
これで自陣の隙を消そうということですね。

(ホ図)

それに対して羽生挑戦者は△8四角と打って桂馬にヒモをつけ、
さらに後手玉を穴熊にまで固めることに成功しました。


60手目の局面(ヘ図)では後手玉はこれ以上にないほど堅くなっています。
5八香の働きなどから考えてもここは後手の作戦勝ちの局面ではないでしょうか。

(ヘ図)

実はこの名人戦の行われていた時に将棋ウォーズで同じ将棋を先手を持って指したのですが、
どうにも先手に苦労が多い将棋で、香得では釣り合わないくらいに感じました。
早指しなら相当後手が勝てる将棋でしょうね。

後手は固め切ったのであとは仕掛けるだけ、
先手はあまり指す手がないところで後手が△4五歩(ト図)と仕掛けました。

(ト図)

その後、飛車を馬に取らせる代わりに後手も角を打ち込んで攻めていき、
76手目4七歩成(チ図)が強い手です。

(チ図)

8四の角がタダなのですが、その後進んでいき82手目8三金(リ図)で龍を捕獲することができました。
79手目で同香ですと、6七角成〜8三金で先手の陣形が悪くなるため指しきれません。

(リ図)

しょうがないので金を取って▲4四桂と攻めあいましたが、
96手目△6七銀(ヌ図)が詰めろで一手負けのようです。

(ヌ図)

こうなると穴熊の深さが発揮されますね。なかなか詰めろがかかりません。

以下は羽生挑戦者が正確に寄せきって勝利を収められました。

(終局図 120手目8七飛まで)

今局は4五歩と仕掛けられたあとは勝負どころなく終わってしまった印象ですね。
先手の5八香の構想に何か誤算があったのかもしれません。

これで名人戦開幕から羽生挑戦者の3連勝となり、
森内名人は後がなくなりました。

第4局はどのような将棋が行われるのか、非常に楽しみです。





参考棋譜 「棋譜でーたべーす」より
開始日時:2014/05/08 9:00
消費時間:120▲522△516
棋戦:第72期名人戦七番勝負第3局

持ち時間:9時間

手合割:平手

後手:羽生善治
先手:森内俊之
手数----指手---------消費時間--
1 7六歩(77)
2 8四歩(83)
3 6八銀(79)
4 3四歩(33)
5 6六歩(67)
6 6二銀(71)
7 5六歩(57)
8 5四歩(53)
9 4八銀(39)
10 4二銀(31)
11 5八金(49)
12 3二金(41)
13 7八金(69)
14 4一王(51)
15 6九王(59)
16 7四歩(73)
17 6七金(58)
18 5三銀(62)
19 2六歩(27)
20 8五歩(84)
21 7七銀(68)
22 5五歩(54)
23 同 歩(56)
24 同 角(22)
25 7九角(88)
26 7三角(55)
27 4六角(79)
28 6四銀(53)
29 7五歩(76)
30 8四飛(82)
31 7四歩(75)
32 同 飛(84)
33 5六歩打
34 3一王(41)
35 2五歩(26)
36 5一金(61)
37 7六歩打
38 3三銀(42)
39 6五歩(66)
40 同 銀(64)
41 7三角成(46)
42 同 桂(81)
43 8二角打
44 4二金(51)
45 9一角成(82)
46 2二王(31)
47 5八香打
48 8四角打
49 7九王(69)
50 6四飛(74)
51 8八王(79)
52 1二香(11)
53 9六歩(97)
54 1一王(22)
55 9五歩(96)
56 2二金(32)
57 8二馬(91)
58 7四銀(65)
59 5七銀(48)
60 3二金(42)
61 3六歩(37)
62 1四歩(13)
63 4六歩(47)
64 4四歩(43)
65 1六歩(17)
66 4五歩(44)
67 同 歩(46)
68 4六歩打
69 2七飛(28)
70 6五桂(73)
71 6四馬(82)
72 同 歩(63)
73 8二飛打
74 4九角打
75 2八飛(27)
76 4七歩成(46)
77 8四飛成(82)
78 5七と(47)
79 同 金(67)
80 同 桂成(65)
81 同 香(58)
82 8三金打
83 同 竜(84)
84 同 銀(74)
85 4四桂打
86 6七銀打
87 3二桂成(44)
88 7八銀成(67)
89 同 飛(28)
90 3二金(22)
91 4一銀打
92 3一金(32)
93 3二金打
94 4一金(31)
95 同 金(32)
96 6七銀打
97 6八金打
98 8六歩(85)
99 同 歩(87)
100 8七歩打
101 同 王(88)
102 5九飛打
103 6九歩打
104 7八銀(67)
105 同 金(68)
106 5七飛成(59)
107 5四角打
108 8五歩打
109 3二金打
110 8六歩(85)
111 9六王(87)
112 8四桂打
113 8六王(96)
114 8五歩打
115 9七王(86)
116 7七竜(57)
117 同 金(78)
118 9六金打
119 8八王(97)
120 8七飛打
121 投了
posted by Justice at 20:30| Comment(0) | プロ棋戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする