2014年06月05日

第85期棋聖戦 第一局 「羽生棋聖vs森内挑戦者」

先の名人戦がまだ記憶に新しい中、同じカードで第85期棋聖戦が幕を開けました。
羽生棋聖は一日制の棋戦を得意にしていることはよく知られていますから、
森内挑戦者がどれだけ迫ることができるのか、非常に注目です。

名人戦は4局中3局が相がかりのシリーズでしたが、今回はどうなるのでしょうか。
注目の戦型は森内挑戦者が先手を持っての横歩取りとなりました。

羽生棋聖の過去五年間のタイトル戦での横歩取りを調べたところ、
ほぼ8割が後手番での採用で、森内挑戦者とは4局やって1勝3敗ということでした。
ただ全体での勝率は6割9分と、タイトル戦とは思えないほどの高勝率を上げています。
特に1日制での横歩取りでは8勝1敗(0.888)と驚異的です。

さて、横歩取りにも色々と種類がありますが、お互いに角道を開け合ったまま飛車先の歩を交換し、先手が▲3四飛と一歩かすめとるのがこの戦法の骨子です。

(横歩取り基本図)

このまま放置すると先手から2二角成とされた時に取る駒がない(金で取っても銀で取っても後手陣が崩壊する)ため、これを防ぐ必要があります。

今回採用されたのは最もオーソドックスな対策で、△3三角とあがる作戦です。

その後先手が3四飛型のまま攻めるのが青野流と呼ばれる指し方ですが、
森内挑戦者は▲3六飛と引き上げる通常の指し方を選択。

後手も飛車を引いて戦うのですが、一般に8五飛と8四飛の二通りがよく指されます。
8四飛が古くから指し方で、8五飛は一時期大流行した、いわゆる「中座飛車」と呼ばれる指し方です。

ただ最近は昔からある8四飛型に5二玉という新しい組み合わせが大流行中で、
羽生棋聖もその指し方を選択されましたね。

(流行の5二玉型)

後手の形はたいてい同じなので、先手がどういった陣形で攻めていくのかが一つのポイントになります。

森内挑戦者は玉の位置を決めずに▲4八銀と指されましたね。
後手の△6二銀は定型で、先手はさらに玉形を保留して▲4六歩。

そこで通常なら△5一金とするのがいつもの形なのですが、
羽生棋聖は△7二金(イ図)と指されました。
この形で7二金が珍しく、なんとすでに前例のない将棋になってしまいました。


(イ図)

相手が名人戦で苦杯を飲まされ続けていた森内挑戦者ということで、
もしかしたら研究をぶつけてきたのかもしれません。

それに対し森内挑戦者は▲2八飛。
横歩を取ったため、一手で引けるところを3四〜3六〜2六〜2八と4手かけて引いた計算になります。
これではかなり手が遅れるため、後手に主導権を握られそうですね。

△7四歩に▲4七銀となり、先手陣が相がかりのような陣形になってきました。
ここで後手が早くも△7五歩(ロ図)と歩をぶつけてきました。

後手陣の中住まいは囲いが完成しているので、
先手の立ち遅れを咎めようという方針でしょうか。



▲同歩に△7三銀と上がり、この手筋は中原流相がかり手法のようです。
先手は目標になりそうな角を交換してさばき、▲8八銀と上がりました。

ここでは▲5六銀とする手も有力だったようです。

それに対し後手は△7六歩(ハ図)と垂らし、
先手の8八銀を壁銀の悪形にしたまま戦おうという方針です。

(ハ図)

先手は▲6八玉と上がり、△2五歩、▲3六歩に△2四飛と飛車を転換。
やはり先手には壁銀があるので、縦よりも横から攻めようという一貫した方針が見えます。

▲2七歩はつらい受けですが、仕方がないところ。
後手は△6四銀とあくまで中央志向。
先手は▲7四歩と逃げ、後手はさらに△5五銀。
▲5六歩に△6四銀と引くしかないのですが、歩を突かせて満足ということですかね。

先手は▲7三歩成と成り捨て、後手△同銀。
そこで▲7七歩と打ち、壁銀を解消する方針です。

△同歩成、▲同銀に△7四銀と立て直します。
▲6六銀は5筋の歩を突いて後手の玉頭を攻める狙いです。

△7三桂、▲5五歩、△7六歩、▲5八飛(二図)として戦力を5筋に集中させました。

(ニ図)

先手としては玉飛接近形なのが気になります。

後手は△4二金として玉頭を補強しましたが、
ついに先手の逆襲が始まります。

▲5四歩、△同歩に▲5三歩が急所の叩き。
同玉は3五角の王手飛車で将棋が終わってしまうため△同金。

それでも▲3五角、△1四飛に▲5三角成と駒損で攻めていきます。
同玉にじっと▲1六歩で先手は後手の飛車を捕獲する狙いです。


そこで後手は△8八歩、▲同金、△7七歩成、▲同金、△3一銀と曲線的な手を指していきます。
こういったよくわからない手で逆転してしまうのは羽生棋聖の得意技ですね。

先手は▲3五金と打って本格的に飛車を詰ましに行きます。
それに対し羽生棋聖は△5五歩(ホ図)と飛車の逃げ道を開けました。
どちらにせよ飛車は取られるのですが、3五金を遊ばせることができれば指せるということですね。
しかし自玉頭の急所の歩なので、相当突きづらいところですが、
さすが羽生棋聖ですね。

(ホ図)

▲1五歩、△6四飛、▲5五銀で飛車が捕まってしまいましたが、
△6五桂と反撃です。
先手は玉と飛車が同時に攻められてしまうのが難点です。

単に6四銀もありましたが、本譜は▲5四歩、△6二玉を利かす順を選択。
▲6四銀、△同歩に▲5三歩成。

本譜ではと金は出来ますが、手順に後手玉を逃がす展開になるのが難点です。
ただ、単に6四銀との比較は難しく、感想戦でも結論は出なかったようです。

歩成を決めない変化だと、▲6四銀、△同玉、▲5二飛成(参考イ図)となります。

(参考イ図)


△7三玉に▲8一飛(へ図)で斜め駒が先手に入れば詰みの形になりました。

(ヘ図)

あまり駒を渡さずに先手玉を寄せなければならないので、
後手の指し手が難しいかと思ったのですが、
羽生棋聖はこのあと上手く先手玉を仕留めます。

まずは△8八角(ト図)と打ち、7九角の筋や7七金へのプレッシャーを作ります。

(ト図)

ここで先手の応手がたくさんあり、本譜の▲8六金や7六金、5九玉なども考えられるところで、
これも感想戦では結論が出なかったようです。

ただ本譜の順では先手にうまい勝ち筋がありました。

それが△5七銀(チ図)です。



同飛は7九角打〜5七角成で馬が8四に効いて後手勝ち。
そこで▲7八玉と逃げますが、△5八銀不成が好手。
もし8八玉と角を取ると、6八飛、7八歩、7七角から詰んでしまいます。

よって△同銀としますが、そこで△7七歩、▲6八玉を決め手から△8二歩(リ図)と手を戻し、
先手に良い攻めがありません。
それに比べ後手は7九角打〜5七桂成のようなわかりやすい攻めがあり、
ここでは後手が勝ちになっています。

(リ図)

そこで▲5九玉、△7九角成、▲4八玉と早逃げしますが、△4六馬(ヌ図)が手厚く受けがない格好です。

(ヌ図)

以下、▲3七銀、△5七桂成、▲同銀、△4七飛、▲3八玉、△4九飛成、▲同玉、△5七馬で一手一手の寄りとなり、森内挑戦者の投了となりました。

(投了図 106手目 △5七馬まで)

本局は途中、森内挑戦者の方が指せそうな局面もあったようですが、
羽生棋聖の勝負術に森内挑戦者の力が抑え込まれてしまいましたね。

これで名人戦に続き羽生棋聖の5連勝。
森内挑戦者としても早く一勝を返したいところですね。

次回第二局は6月21日(土)愛知県豊田市「ホテルフォレスタ」で行われます。

ニコニコ生放送でも解説が行われますので、ぜひご覧下さい。


広瀬章人 八段(解説)、山口恵梨子 女流初段(聞き手)




参考棋譜「棋譜でーたべーす」より

開始日時:2014/06/02 09:00
消費時間:106▲239△237
棋戦:第85期棋聖戦五番勝負 第1局

場所:兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」

持ち時間:各4時間

手合割:平手

後手:羽生善治
先手:森内俊之竜王
手数----指手---------消費時間--
1 7六歩(77)
2 3四歩(33)
3 2六歩(27)
4 8四歩(83)
5 2五歩(26)
6 8五歩(84)
7 7八金(69)
8 3二金(41)
9 2四歩(25)
10 同 歩(23)
11 同 飛(28)
12 8六歩(85)
13 同 歩(87)
14 同 飛(82)
15 3四飛(24)
16 3三角(22)
17 3六飛(34)
18 8四飛(86)
19 2六飛(36)
20 2二銀(31)
21 8七歩打
22 5二王(51)
23 4八銀(39)
24 6二銀(71)
25 4六歩(47)
26 7二金(61)
27 2八飛(26)
28 7四歩(73)
29 4七銀(48)
30 7五歩(74)
31 同 歩(76)
32 7三銀(62)
33 3三角成(88)
34 同 桂(21)
35 8八銀(79)
36 7六歩打
37 6八王(59)
38 2五歩打
39 3六歩(37)
40 2四飛(84)
41 2七歩打
42 6四銀(73)
43 7四歩(75)
44 5五銀(64)
45 5六歩(57)
46 6四銀(55)
47 7三歩成(74)
48 同 銀(64)
49 7七歩打
50 同 歩成(76)
51 同 銀(88)
52 7四銀(73)
53 6六銀(77)
54 7三桂(81)
55 5五歩(56)
56 7六歩打
57 5八飛(28)
58 4二金(32)
59 5四歩(55)
60 同 歩(53)
61 5三歩打
62 同 金(42)
63 3五角打
64 1四飛(24)
65 5三角成(35)
66 同 王(52)
67 1六歩(17)
68 8八歩打
69 同 金(78)
70 7七歩成(76)
71 同 金(88)
72 3一銀(22)
73 3五金打
74 5五歩(54)
75 1五歩(16)
76 6四飛(14)
77 5五銀(66)
78 6五桂(73)
79 5四歩打
80 6二王(53)
81 6四銀(55)
82 同 歩(63)
83 5三歩成(54)
84 7三王(62)
85 8一飛打
86 8八角打
87 8六金(77)
88 5七銀打
89 7八王(68)
90 5八銀(57)
91 同 銀(47)
92 7七歩打
93 6八王(78)
94 8二歩打
95 5九王(68)
96 7九角成(88)
97 4八王(59)
98 4六馬(79)
99 3七銀打
100 5七桂成(65)
101 同 銀(58)
102 4七飛打
103 3八王(48)
104 4九飛成(47)
105 同 王(38)
106 5七馬(46)
107 投了
まで106手で後手の勝ち
posted by Justice at 00:45| Comment(0) | プロ棋戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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