2014年04月10日

第72期名人戦 第一局「森内竜王名人vs羽生三冠」

2014年4月8〜9日に第72期名人戦の第一局が行われました。
迎え撃つは森内俊之名人、そしてA級順位戦の頂点に立ち挑戦者となったのは羽生善治三冠。

現代の将棋界の双璧であり、誰もが認めるゴールデンカードの七番勝負が遂に幕開けです。

先手となった森内名人の初手は▲2六歩。
おそらく相がかりを誘っているのでしょう。

そしてもちろん堂々と△8六歩と受けて立つ羽生三冠。

先手は「相がかり引き飛車棒銀」を選択しました。
通常は3六銀の形は桂馬が使えないため悪形とされていますが、
この戦法だけは特別で、この形が定跡となっています。

イ図は17手目の▲3六銀まで

(イ図)

この銀は2五銀や4五銀の進出や、4七銀〜5六銀と腰掛け銀にも変化する狙いがあります。

本譜では後手の9五歩の突き越しが趣向ですね。
序盤での端の突き越しは手が遅れる面もあるため、
将来的な展望がある程度ないと指せません。

後手は歩交換から8四の浮き飛車に構えました。

先手の25手目▲6六歩は角を交換せずにじっくり持久戦で行こうという狙いです。
ただそうなると後手の5二玉型があまり効いていません。

ということで、後手の羽生三冠がいきなりジャブを繰り出しました。
すかさず8六歩の合わせから7六の歩をかすめ取りにいきました。

この歩を守るには7七金と上がるよりありません。
そこで羽生三冠は飛車取りに構わず△8七歩(!)

▲8六金、△8八歩成、▲同銀、△6六角(ロ図)で早くものっぴきならない局面になってしまいました。

(ロ図)

歩損の上に先手に飛車を渡して大丈夫なのかと心配ですが、
「序盤は飛車より角」という言葉もあり、先手がまとめづらいという羽生三冠の大局観ですね。

序盤から危険な変化がたくさんあり、すぐに潰れても先手は文句の言えない恰好です。
しかしさすが森内名人、玄人好みな自陣飛車を打ちギリギリのバランスで受け止めます。

実は34手目の△6六角までの手順には前例があり、
2011年の王将戦リーグにて同カードで先後も同じ対局で登場しています。
この時は先手が9六歩を受け、2七銀型、後手は7二銀と上がっていました。

先手は▲8三歩から攻め合いましたが、2枚の馬を作った羽生三冠が勝利を収めています。
このこともあって森内名人はしっかりと受けて戦う方針を選ばれたのでしょう。
参考棋譜は記事最下部に掲載しておきます。


39手目▲4五銀(ハ図)、先手陣は恐ろしいくらいにバラバラな陣形。
局面だけ見てこれがあの「名人戦」だと誰が信じるでしょうか。

(ハ図)

しかしこういう将棋を見ると将棋の深淵さ、奥深さに驚きます。
これこそ21世紀の将棋の姿なのかもしれませんね。

まさに名人芸で先手陣をまとめあげる森内名人。
じっくりと組合ってしまうと勝ち味がなくなる恐れがあるため、
羽生三冠は早期の開戦を狙い、52手目△7四歩(二図)と歩をぶつけました。

(二図)

△3六歩と軽く突き捨てを入れ、58手目△6四角(ホ図)と狙いの角打ちを放ちました。

(ホ図)

先手は飛車の弱点であるコビン*を狙われ忙しい局面になり、
後手の仕掛けが成功したのではないかという評判でした。

*コビン - 駒の斜め前、特に飛車や玉、のことを表します。

66手目△6六角右(ヘ図)、ついに9九と5七の角成が同時に受からなくなりました。
しかし、ここで狙いの一手が▲6七銀左、7八の飛車が7二の金を狙っているため、角成は出来ません。
本当に絶妙のバランスで均衡が保たれていますね。

(ヘ図)

85手目△3五歩、辛抱に辛抱を重ねる森内名人、
しかし羽生三冠はその手を緩めることなく攻め続けます。
△3五歩は角のラインを生かした軽い手です。

94手目△5五金(ト図)、世にも奇妙な後手陣、まるでピラミッドのようです。

(ト図)

100手目△3五角上(チ図)、手厚く受ける森内名人に対し、角を連結し突破を試みる羽生三冠。
受け切れば先手、突破すれば後手の勝ちという「最強の矛vs最強の盾」の図式になってきました。

(チ図)

117手目▲3七同桂(チ図)、3七の地点ですべて精算され、あんなに堅かった森内玉が裸になってしまいました。
対して羽生三冠は持ち駒に金銀4枚、どうにも寄せがありそうな局面になってしまったようです。

(チ図)

127手目▲4四桂(リ図)、上からの金銀プレスでもはや虫の息の先手玉ですが、
この手が最後の希望をかけた一手です。
一見ただなのですが、王手で角が打てるというのが狙いです。

(リ図)

138手目△6七同成銀、先手も角打ちから粘りましたが、後手は飛車を手に入れて攻めに困らなくなりました。

以下は羽生三冠が勝負に徹した手堅い指し手を続け、178手にて羽生三冠が勝利されました。

(終局図178手目△6七成銀まで)

本局は序盤早々の決戦からは想像もつかない渋いねじり合いが繰り広げられた大熱戦でした。
次の対局も非常に楽しみです。

次回第二局は4月22〜23日に行われます。

ニコ生





参考棋譜1「棋譜でーたべーす」より

開始日時:2014/04/08 9:00
消費時間:178▲539△537
棋戦:第72期名人戦七番勝負第1局

持ち時間:9時間

手合割:平手

後手:羽生善治
先手:森内俊之
手数----指手---------消費時間--
1 2六歩(27)
2 8四歩(83)
3 2五歩(26)
4 8五歩(84)
5 7八金(69)
6 3二金(41)
7 2四歩(25)
8 同 歩(23)
9 同 飛(28)
10 2三歩打
11 2八飛(24)
12 3四歩(33)
13 3八銀(39)
14 9四歩(93)
15 2七銀(38)
16 9五歩(94)
17 3六銀(27)
18 8六歩(85)
19 同 歩(87)
20 同 飛(82)
21 8七歩打
22 8四飛(86)
23 7六歩(77)
24 5二王(51)
25 6六歩(67)
26 8六歩打
27 同 歩(87)
28 同 飛(84)
29 7七金(78)
30 8七歩打
31 8六金(77)
32 8八歩成(87)
33 同 銀(79)
34 6六角(22)
35 6七飛打
36 2二角(66)
37 7五歩(76)
38 7二金(61)
39 4五銀(36)
40 3五歩(34)
41 6六歩打
42 8二銀(71)
43 7六金(86)
44 8三銀(82)
45 8七飛(67)
46 8四歩打
47 5六銀(45)
48 1四歩(13)
49 7七銀(88)
50 9三桂(81)
51 8六歩打
52 7四歩(73)
53 同 歩(75)
54 3六歩(35)
55 同 歩(37)
56 7四銀(83)
57 7五歩打
58 6四角打
59 1八飛(28)
60 7五銀(74)
61 同 金(76)
62 同 角(64)
63 7八飛(18)
64 7六歩打
65 同 銀(77)
66 6六角(75)
67 6七銀(76)
68 7七歩打
69 5八飛(78)
70 7五角(66)
71 6六歩打
72 8五歩(84)
73 4八王(59)
74 6四角(75)
75 7七飛(87)
76 7三歩打
77 4六歩(47)
78 8六歩(85)
79 8八歩打
80 4六角(64)
81 3七銀打
82 6四角(46)
83 3八金(49)
84 3五歩打
85 同 歩(36)
86 3六歩打
87 2八銀(37)
88 4四角(22)
89 4七銀(56)
90 8七歩成(86)
91 同 歩(88)
92 3三桂(21)
93 4六歩打
94 5五金打
95 7六飛(77)
96 4六金(55)
97 同 銀(47)
98 同 角(64)
99 5六金打
100 3五角(44)
101 3七歩打
102 4五銀打
103 4七金(38)
104 5六銀(45)
105 同 銀(67)
106 2五桂(33)
107 4六金(47)
108 同 角(35)
109 2六銀打
110 3七歩成(36)
111 同 銀(28)
112 同 桂成(25)
113 同 銀(26)
114 同 角成(46)
115 同 桂(29)
116 4六銀打
117 3八歩打
118 6七銀打
119 同 銀(56)
120 4七金打
121 4九王(48)
122 5七銀成(46)
123 4八銀打
124 同 金(47)
125 同 飛(58)
126 4七銀打
127 4四桂打
128 同 歩(43)
129 2五角打
130 3四歩打
131 4七角(25)
132 5五桂打
133 5六角(47)
134 6七桂成(55)
135 同 角(56)
136 4七銀打
137 同 飛(48)
138 同 成銀(57)
139 3四角(67)
140 4三金打
141 6七角(34)
142 2九飛打
143 3九桂打
144 1九飛成(29)
145 4八銀打
146 4六香打
147 4七銀(48)
148 同 香成(46)
149 4八銀打
150 3六歩打
151 4七銀(48)
152 3七歩成(36)
153 同 歩(38)
154 5五桂打
155 5六角(67)
156 6七銀打
157 8一銀打
158 6二金(72)
159 7二金打
160 7六銀成(67)
161 6二金(72)
162 同 王(52)
163 8三角成(56)
164 5二王(62)
165 3六香打
166 3四歩打
167 同 香(36)
168 同 金(43)
169 6一角打
170 4二王(52)
171 3四角成(61)
172 4三金打
173 5六馬(34)
174 4七桂成(55)
175 同 馬(56)
176 3八歩打
177 同 馬(47)
178 6七成銀(76)
179 投了
まで178手で後手の勝ち

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参考棋譜2 2011年王将戦リーグ「棋譜でーたべーす」より

開始日時:2011/11/28 10:00
棋戦:王将戦
戦型:相掛かり

場所:東京・将棋会館

持ち時間:4時間

手合割:平手

後手:羽生善治
先手:森内俊之
手数----指手---------消費時間--
*棋戦詳細:第61期王将戦挑戦者決定リーグ7回戦
* 「森内 俊之名人 」vs「羽生 善治二冠 」
1 2六歩(27)
2 8四歩(83)
3 2五歩(26)
4 8五歩(84)
5 7八金(69)
6 3二金(41)
7 2四歩(25)
8 同 歩(23)
9 同 飛(28)
10 2三歩打
11 2八飛(24)
12 3四歩(33)
13 3八銀(39)
14 7二銀(71)
15 2七銀(38)
16 9四歩(93)
17 9六歩(97)
18 8六歩(85)
19 同 歩(87)
20 同 飛(82)
21 8七歩打
22 8五飛(86)
23 7六歩(77)
24 5二王(51)
25 6六歩(67)
26 8六歩打
27 同 歩(87)
28 同 飛(85)
29 7七金(78)
30 8七歩打
31 8六金(77)
32 8八歩成(87)
33 同 銀(79)
34 6六角(22)
35 8三歩打
36 4五角打
37 7七銀(88)
38 5七角成(66)
39 6八銀(77)
40 9三馬(57)
41 8二歩成(83)
42 8九角成(45)
43 7二と(82)
44 同 金(61)
45 5四歩打
46 9九馬(89)
47 5三歩成(54)
48 同 王(52)
49 5一飛打
50 4二王(53)
51 8一飛成(51)
52 5一香打
53 5四歩打
54 同 香(51)
55 5七歩打
56 8二馬(93)
57 6一竜(81)
58 7一馬(82)
59 5一銀打
60 3三王(42)
61 5二竜(61)
62 4四馬(99)
63 3六銀(27)
64 2二王(33)
65 7五金(86)
66 6二金(72)
67 4一竜(52)
68 6一金(62)
69 1五桂打
70 3三馬(44)
71 2三桂成(15)
72 同 金(32)
73 2四歩打
74 同 金(23)
75 3一竜(41)
76 同 王(22)
77 4二銀打
78 同 馬(33)
79 同 銀成(51)
80 同 王(31)
81 2四飛(28)
82 3二銀打
83 2二飛成(24)
84 3一銀打
85 2五竜(22)
86 9八飛打
87 6五竜(25)
88 4四馬(71)
89 4五金打
90 5三桂打
91 4四金(45)
92 6五桂(53)
93 同 金(75)
94 5七香(54)
95 投了
まで94手で後手の勝ち
posted by Justice at 00:00| Comment(1) | プロ棋戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする